セミナー・イベント

第33回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域/非線形・非平衡数理研究領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2024年1月23日(火)15:00~
場所:zoom形式(オンライン)

「トーラスプラズマのアスペクト比がもたらすこと」
(What aspect ratio of torus plasma brings)(講演)
花田 和明 教授 九州大学 応用力学研究所

概要・Abstract

フュージョン・エネルギーを活用するために1億度を超える高温のプラズマを数m規模の入れ物に閉じ込めておかなくてはならない。燃料粒子の速度は数百 km/秒に達するため直線形状の両端をつなぎ合わせて終端を持たないトーラスが入れ物として採用される。このアイデアは一見すると単純なことに思えるかもしれないが、トーラス形状にすることで様々な新たな概念が導入される。磁場勾配や遠心力によるドリフト、磁場の強弱によるミラー効果と捕捉粒子、新古典輸送等で、この効果を表す指標の一つがアスペクト比である。トーラスの主半径と副半径の比であるアスペクト比は2以下になると顕著な効果を発現する。例えば悪い曲率の磁力線の長さが短くなることで圧力駆動の不安定性が低減されて高β (βはプラズマ圧力に対する磁気圧の比)プラズマを得ることが可能となったり、プラズマの性能に良い貢献をするプラズマ電流を高くできたりする。この効果を最大限活用する配位を球状トカマクと呼ぶ。球状トカマクは、近年研究の進展が目覚ましく、そのアスペクト比がもたらす恩恵を遺憾なく発揮している。本講演ではアスペクト比が何をもたらし、最近の研究成果の何と対応しているのかを簡単に解説する。

   

参考文献
[1] J. Plasma Fusion Res. Vol.88 No. 12 (2012) 706-760 球状トカマク研究の進展 ―核融合エネルギー開発に向けてー

第32回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域/非線形・非平衡数理研究領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2024年1月16日(火)15:00~
場所:zoom形式(オンライン)

「トカマクエナジーにおける核融合開発」
(Fusion Development at Tokamak Energy)(講演)
高瀬 雄一 先生  Tokamak Energy Ltd・Senior Technical Advisor

概要・Abstract

英国トカマクエナジー社[1]では、低アスペクト比トカマクと高温超伝導 (HTS)コイルを組み合わせ、早期の商用核融合炉実現を目指している。小型球状トカマク ST40 を用い、既に核融合燃焼に必要なイオン温度 1 億度を達成しているほか、核融合炉で必要となる技術の開発を行っている。HTS コイル開発では、20K で 24T (世界記録)の達成、クエンチ耐性の大幅な向上の実現のほか、球状トカマク配位の HTS コイルシステムの試験を開始している。また、これらの技術を商品化するため、マグネット事業ユニットを創設し、事業開拓を開始している。本セミナーでは、これらの活動について報告する。

   

参考文献
[1] https://tokamakenergy.com/

第29回・第30回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域/非線形・非平衡数理研究領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:(1) 2023年5月24日(水)10:00~12:00 (2) 2023年5月31日(水)10:00~12:00
場所:zoom形式(オンライン)

「疑似アニーリングによるハミルトン系の平衡・安定性解析ー基礎と応用」
(Equilibrium and stability analysis of Hamiltonian systems via simulated annealing - basis and applications)(講演)
古川 勝 教授 鳥取大学 工学部 機械物理系学科

概要・Abstract

理想 MHD(磁気流体力学)方程式は,ハミルトニアンとポアソン括弧を使って非正準ハミルトン系として書ける.ポアソン括弧の歪対称性によりエネルギーが保存し,そのヌル空間としてカシミール不変量が存在する.カシミール不変量が同じ値を取る無数の状態の中で,エネルギー極値となる状態が平衡である.ポアソン括弧を元にし,カシミール不変量を保持したままエネルギーが単調変化できるように作った人工的な発展方程式を解き,エネルギー極値に至らしめようとするのが疑似アニーリングという方法である.本セミナーでは,1 回目に有限自由度の例も含めて基礎的な部分を,2 回目に簡約化 MHD の平衡 ・安定性問題への応用例について述べる.

   

参考文献
[1] G. R. Flierl, P. J. Morrison, Physica D 240, 212 (2011).
[2] 古川勝,プラズマ・核融合学会誌 94, 341 (2018).
[3] M. Furukawa and P. J. Morrison, Phys. Plasmas 29, 102504 (2022).

第27回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年10月25日(火) 15:00~
場所:zoom形式(オンライン)

「核融合発電を目指した研究開発戦略の一つの私的レビュー」
(A Personal Review of Strategic Planning of Research & Development toward Fusion Power)(講演)
栗原 研一 文部科学省技術参与 核融合研究開発担当(前 量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門長)

概要・Abstract

究極のエネルギー源核融合発電は、世界中で研究開発が始まって既に70年以上が経過しました。燃料が海水中に無尽蔵、高い安全性、万年オーダーの隔離を要する放射性廃棄物は生じず、また低レベル廃棄物も減衰が早く管理が容易で、まさに究極ですが、高度なプラズマ制御や超ハイテク機器開発が必要で、しかも装置規模の大型化が必須で、課題克服に予想以上の時間がかかっています。
 1950年代から世界中で繰り広げられた性能競争の結果、1990年代には欧州のJET、日本のJT-60で臨界プラズマ条件 (エネルギー増倍率=1)が達成され、しかもJT-60は、イオン及び電子の達成温度で世界記録を保持していることは、あまり知られていません。
 その成果は、2007年から開始された国際協力 「実験炉ITER」の建設計画に繋がっており、2025年の実験開始に向け、完成度77%まで組立が進んでいます。この実験炉で、核融合出力50万kW (増倍率10)のプラズマを長時間保持出来れば、いよいよ最初に発電を行う原型炉(核融合出力150 万kW(増倍率20)、60万kW発電)の建設へと進む、というシナリオが日本や主要先進国の大凡のロードマップです。
 一方、エネルギー問題と強く関係する地球環境問題対策では、2019年気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)を経て、異常気象頻発を背景に、脱炭素政策が国際的なうねりとなっています。中心課題のカーボンニュートラルに貢献するエネルギー源の一つとして、先進各国は核融合発電を位置づけています。米英の脱炭素政策の中で、2035-2040年代という早期の核融合発電計画が発表され、英国では建設サイトも絞られています。日本においても、岸田総理が国会本会議での施政方針演説で核融合エネルギーにも言及し、国家的なGX(Green Transformation)戦略の中で開発の加速が期待されています。
 本講演では、核融合の開発小史を紹介し、特に発電に最短距離にある磁場閉じ込め方式 「トカマク装置」を中心に1950年代以降の課題克服に向けた主要な活動と開発戦略を技術的な側面を交えてまずレビューします。実験炉に向けた検討がIAEAの場で開始されたのは、1970年代後半で未だ先の見通せない時期でしたが、その後の実験の進展により1990年代には、実験炉の設計活動が開始されました。そこで、プラズマ性能の進展と開発戦略とが相呼応する形で物事が進んで行く様は核融合の特徴でもありますので、 2000年代のITER建設開始までの技術と戦略の相互作用を次にレビューします。直近の約20年間は、ITER後の核融合発電を行う原型炉実現までを対象として検討されてきています。世界的に新規の大型装置がない中で、技術的な検討を進めなければならないという困難な境界条件での戦略を短くレビューします。このように70年間は、未知のプラズマに対し、実験からの知見と技術開発を武器に、研究開発戦略という一定期間の計画外挿に基づく短期ミッションを適宜修正接続しながら進めてきました。この私的レビューを通じて、過去の研究開発に関する格闘の歴史を踏まえて現時点での未来展望を試みます。

   

参考文献
[1] 山本賢三、「核融合の40年 ―日本が進めた巨大科学―」ERC出版(1997)
[2] ロビン・ハーマン(見角鋭二訳)、「核融合の政治史」朝日新聞社(1996)
[3] 関昌弘編,「核融合炉工学概論」日刊工業新聞社 (2001)
[4] ITER情報:URL、ITER機構:URL
[5] 幅広いアプローチ(BA)活動情報:URL
[6] 原型炉開発戦略は, 以下の文献(掲載学会のHPで情報入手可能):
 ① 坂本修一, 山田弘司, 「今後の核融合原型炉開発に向けて」プラズマ・核融合学会誌, 90 (2014) 821-824.
 ② 松浦重和, 小川雄一, 岡野邦彦, 上田良夫, 秋山毅志, 「核融合原型炉開発に向けた新推進方策 ・ロードマップの策定にあたり」プラズマ・核融合学会誌, 94 (2018) 575-582.
 ③ 岡野邦彦, 飛田健次,「核融合原型炉開発の動向 アクションプランと核融合工学研究の進展」日本原子力学会誌, 60 (2018) 637-641.
[7] K.Tobita, et al.,"Overview of the DEMO conceptual design activity in Japan”, Fusion Engineering & Design, 136 (2018) 1024-1031.

第26回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年10月18日(火) 15:00~
場所:zoom形式(オンライン)

「核融合原型炉の概念設計の現状と設計パラメータについて」
(Current status of DEMO conceptual design and design parameters)(講演)
坂本 宜照 グループリーダー 量子科学技術研究開発機構 核融合炉システム研究グループ

概要・Abstract

核融合実験炉ITERの建設が着実に進展し、ファーストプラズマが2025年に予定されている。ITERにおいて核燃焼プラズマの長時間維持を実証した後、核融合エネルギーによる発電を実証する核融合原型炉段階に移行する。我が国では、文部科学省の核融合科学技術委員会が原型炉研究開発ロードマップを策定するとともに、産学官が連携する原型炉設計合同特別チームがQST六ヶ所研究所に設置されITER建設と並行して核融合原型炉の概念設計の基本設計が実施された。核融合科学技術委員会による2021年の第1回中間チェックアンドレビュー後、核融合原型炉の概念設計活動が開始されている。さらに、本年9月には国家核融合戦略を策定する有識者会議が内閣府に設置された。セミナーでは、これまでに検討された核融合原型炉の基本概念について、概念設計の現状とプラズマ物理を含む原型炉パラメータ設定の根拠や制約条件について報告する。

   

参考文献
[1] 核融合科学技術委員会の報告書:URL
[2] 原型炉設計合同特別チームHP:URL

第25回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年7月27日(水) 13:00~15:00
場所:zoom形式(オンライン)

「プラズマ-物質相互作用のミクロな視点のシミュレーション」
(The simulation study for plasma-material interaction from microscopic viewpoint)(講演)
伊藤 篤史 准教授 自然科学研究機構 核融合科学研究所

概要・Abstract

固体 ・液体 ・気体に続く物質の四態目としてプラズマは例えられるが、その両極にある状態が接触する界面現象をプラズマ-物質相互作用と呼ぶ。プラズマは一般的に 1 万度以上の温度とされるが、それと接触する固体は融けることなく健全である。プラズマの密度が気体よりもさらに 1 万倍から 100 万倍も低いためである。つまり、かなり高エネルギーのプラズマ粒子が、非常に低い頻度で固体表面に飛来している。 これを原子の視点に立って眺めてみよう。プラズマ装置における典型的な入射頻度(フラックス)は核融合においても産業応用においても 1020-1022 m-2s-1 程度である。典型的なナノスケール表面として 100 nm2 の領域を考えると、そこにプラズマ粒子が飛来する時間間隔は 1-100 𝜇𝜇s である。これは基本的な原子の時間スケール (振動周期や化学反応)と比べるとかなり長い。拡散現象などの熱統計力学的な効果による原子の応答が十分に間に合う。これにより、単に融けるとか割れるといったマクロな概念では説明できないナノスケールの構造物が現れるのだと理解できる。このような系の例としてヘリウムプラズマ誘起ファズ構造を取り上げ、分子動力学、二体衝突近似、動的モンテカルロを使ったシミュレーションを検討すると共に、問題点を議論したい。

   

参考文献
[1] プラズマシミュレーション 多階層複雑現象の解明へ, プラズマ・核融合学会編, 2018, pp378-390.

第24回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ研究領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年7月5日(火) 13:00~15:00
場所:zoom形式(オンライン)

「核融合炉実現に向けたトカマク周辺プラズマ物理研究の現状と課題」
(Status and issues of plasma physics research at tokamak edge pedestal for fusion reactor)(講演)
相羽 信行 上席研究員 量子科学技術研究開発機構

概要・Abstract

磁場閉じ込めプラズマにおいて,閉じ込め領域の境界近傍 (周辺領域)でプラズマ閉じ込め性能が改善される運転モード (H-mode)が発見されてから 40 年が経つ[1].この H-modeで観測される 「周辺ペデスタル領域」がプラズマ全体の閉じ込め性能向上に寄与する影響は 非常に大きいため,ITER や日本で検討を進めているトカマク方式原型炉 JA DEMO では Hmode を標準運転モードとして採用している[2].しかしながら,この H-mode では通常 Edge localized modes (ELMs)と呼ばれる不安定性が発生し,周辺ペデスタル領域で閉じ込められた熱・粒子を間欠的に放出することが知られている.ITER や原型炉ではこの ELMs によって放出される熱 ・粒子が除熱装置 (ダイバータ)の寿命を著しく低減すると考えられており,H-mode を維持しつつ ELMs が発生しない,あるいは ELM による熱 ・粒子放出量が少ない運転モードを実現することは核融合炉実現に向けた最重要課題の一つとなっている. 本講演では,既存実験装置において検討が進められている ELM の影響を低減した運転モードおよび低減するための外部制御方法に関する現状での理解,および核融合炉においてそれらを採用するにあたって解決すべき課題について紹介する.これらの運転モードや制御方法は多岐に渡るため講演では概要を触れるに留まらざるを得ないが,興味を持たれたものについて気軽に質問・議論をする機会に出来れば幸甚である.

   

参考文献
[1] F. Wagner et al., Phys. Rev. Lett. 49, 1408 (1982).
[2] ITER Research Plan (2018), K. Tobita et al., Fusion Eng. Des. 136, 1024 (2018).

第23回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年6月13日(月) 15:00~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

「次世代半導体リソグラフィの実用化に至るEUV光源のプラズマ分光、原子過程研究の歩み」
(On plasma researches of EUV light source for next generation lithography)(講演)
佐々木 明 専門業務員 量子科学技術研究開発機構・関西光科学研究所

概要・Abstract

半導体リソグラフィ技術の進歩により、電子回路の微細化が進み、コンピュータの性能が向上することで、産業、社会に変革がもたらされている。Web 2.0 と呼ばれるインターネットの進歩は、日常生活、仕事のために情報収集、交換するプロセスを根本的に変革しつつある。 近未来、自動運転が人の行動を変革すると言われている。直近のウクライナ戦争では、軍事技術の変革が戦争の展開に大きな影響を与えているとされている。次世代用極端紫外 (EUV)光源は、電子回路の微細化に中心的な役割を果たす技術のひとつとして、20 年以上研究開発が続けられてきた。プラズマ物理の研究によって、レーザー生成プラズマ光源の技術的な可能性が明らかになり、出力と信頼性の向上により量産技術として確立された。プラズマ分光、原子過程の基礎研究は、スズプラズマの発光メカニズムの正確な理解のもとにプラズマ条件を最適化する大きな役割を果たした。EUV リソグラフィ研究は、光源開発にとどまらず、総合技術として材料 (フォトレジスト)等、光学 (ミラー等)の技術にも広くつながっていて、プラズマ研究に新しい課題を提供している。

   

参考文献
[1] “次世代半導体リソグラフィの実用化に至る EUV 光源の プラズマ研究開発の歩み”, 佐々木明,J. Plasma Fusion Res. 96, 283 (2020).

第22回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年2月21日(月) 15:30~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

「天体衝撃波での粒子加速研究と高強度レーザーを用いた実験室宇宙物理学」
(Studies of collisionless shocks in astrophysical objects and in laboratories)(講演)
山崎 了 教授 青山学院大学 理工学部 物理科学科

概要・Abstract

ガンマ線バースト等の天体現象や、超新星残骸、銀河団等の天体には普遍的に衝撃波が存在する。このような宇宙の低密度媒質中の衝撃波では、媒質プラズマ粒子間のクーロン衝突の平均自由行程が遷移層の厚みに比べて桁違いに長い無衝突衝撃波である。そのため衝撃波面の周辺で速度の大きな非熱的粒子の存在が可能である。すなわち一部の粒子たちは電磁波動による散乱を受ける等して、エネルギーを獲得する(粒子加速)。しかし、その過程の詳細は未解明である。これに起因し、高エネルギー粒子の総量が決まらず、満足に理解できない天体現象が多数あるのが現状である。
 本発表では、まず、上述の天体 ・天体現象の説明と、それらに存在する無衝突衝撃波に関する観測および理論研究の現状、および天体物理学的な研究動機 ・問題点を紹介する。続いて、現在、我々の進めている、高強度レーザーを用いた無衝突衝撃波生成実験について紹介する。高強度レーザーを用いた実験室宇宙物理学を、従来の天体観測、理論 ・シミュレーションに続く衝撃波の第3の研究基盤ツールとすべく挑戦している現状を紹介させていただきたい。

   

参考文献
[1] プラズマ・核融合学会誌小特集 「宇宙と実験室の無衝突衝撃波—粒子加速と磁場生成 ・増幅—」 (第92巻・第2号、2016 年2 月). URL

第20回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(非線形・非平衡数理研究領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年1月25日(火) 15:30~17:00
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「相対論的磁気流体波のパラメトリック不安定性と粒子加速」
(Particle acceleration in parametric instabilities of relativistic MHD waves)(講演)
松清 修一 准教授 九州大学大学院総合理工学研究院 環境理工学部門

概要・Abstract

大振幅の磁気流体波動は宇宙のいたるところで励起され、粒子加速に寄与すると考えられている。太陽風中では背景磁場と同程度の磁場揺らぎが常時観測されているし、超新星残骸等に付随する無衝突衝撃波近傍では磁場が星間空間に比べてはるかに強く増幅される。またFast Radio Burstなど、高輝度放射を発する未知の天体も報告されており、いずれも高エネルギー粒子の生成に寄与している可能性がある。緩和時間の長い宇宙では発展途上乱流がしばしば観測され、コヒーレントな波動とともによく加速された荷電粒子が見られる。
 本セミナーでは、フル粒子計算によって再現された相対論的磁気流体波のパラメトリック不安定性[1]の長時間発展において、時空間に局所的に励起されるコヒーレントな波動が粒子加速に本質的な役割を果たすようすを議論する[2]。加速過程の少数自由度系モデルを構築して、波動の振幅がある臨界値を超えると荷電粒子の振る舞いにある種の相転移が起こること、またこのときすべての荷電粒子が短時間のうちに相対論的エネルギーにまで加速され得ることを示し、レーザー実験での将来的な検証可能性についても議論する[3]。

   

参考文献
[1] Sagdeev and Galeev, Nonlinear Plasma Theory, W. A. Benjamin, 1969.
[2] Matsukiyo and Hada, ApJ, 692, 1004, 2009.
[3] Isayama, Takahashi, Matsukiyo, and Sano, submitted.

第19回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2022年1月21日(金) 15:00~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

「トカマクプラズマの輸送研究と統合コード開発、そして機械学習の応用」
(Transport physics studies and the development of integrated models in tokamak plasmas, and the application of machine learning techniques to these issues)(講演)
本多 充 教授・副センター長 京都大学工学研究科附属工学基盤教育研究センター

概要・Abstract

トーラスプラズマの巨視的なプラズマ物理量の定常状態ないし発展を予測する場合、従来型の移流拡散型輸送方程式群を解く輸送コードを核に、様々な物理モジュールを組み合わせた統合型輸送モデルを用いることが多い。講演者はこれまで3種類の統合モデルの開発と実行に係わってきており、特に近年開発してきた定常型輸送コードGOTRESSを核とする統合モデルGOTRESS+[1]の開発の現状と、今後の展開について述べる。
 従来型拡散型輸送コードは扱いやすい一方で、支配方程式はほぼ純粋な拡散方程式であることからプラズマ固有の現象は全て係数やソース項などのモデルに押し込まれている。プラズマの大きな特徴は流体と電磁場の相互作用による自己無撞着性にあるため、統合モデルでは扱いが難しいところである。1次元の方程式群でありながらも、物理量間で自己無撞着性を保った流体型輸送コードTASK/TX[2]を開発しており、その特徴を活かして電荷の破れと流体運動の関連を中心とした物理課題への取り組みなどを紹介する。
 近年の深層学習を中心とした機械学習の興隆は科学分野にも大きな影響を与えている。ニューラルネットワークモデルを用いた輸送モデルの代理モデル開発により、数オーダーの高速化を実現している[3]。また、画像認識や時系列解析のモデルを用いることで、長時間のシミュレーションを要していた第一原理シミュレーションを早期に終了させる取り組みも進められており、その現在位置を紹介する。

   

参考文献
[1] M. Honda et al., Nucl. Fusion 61 (2021) 116029.
[2] M. Honda and A. Fukuyama, Comput. Phys. Commun. 208 (2016) 117-134.
[3] M. Honda and E. Narita, Phys. Plasmas 26 (2019) 102307.

第17回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(非線形・非平衡数理研究領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年10月29日(金) 13:30~15:00
場所:zoom形式(オンライン)

「宇宙への打上げ技術の現状と課題」
(Current status and issues of launch technology to space)(講演)
棚橋美治 教授 中部大学工学部 宇宙航空理工学科

概要・Abstract

1955年糸川英夫博士による長さ23センチのペンシルロケットが発射実験に成功して以来、ロケットによる衛星打上げ事業は、液体燃料ロケットと固体燃料ロケットの2大方式により、幾多の困難を乗り越え、成功率においては世界トップレベルに達している。我が国が独自の輸送システムを保持する意義は、安全保障を含めた宇宙開発利用の我が国の自立性や科学技術創造立国を目指した優れた宇宙技術の確保等にある。ロケット打上げ技術は、ユーザーの衛星をいかに効率的に地球周回軌道近くまで送り届けるかに掛かっている。我が国は最も赤道に近い射場でも種子島の中緯度にあり、仏アリアンロケットは赤道直下の仏領ギアナから打上げられるため、消費燃料の点で有利である。近年、受注確保のため低コスト且つユーザー負担の小さいロケットを目指し、極力軌道に近いところまで打上げられるようエネルギ-効率向上のための様々な工夫がなされている。打上げ費用は従来の半分のレベルとなりつつあるが、米スペースXのように再使用型ロケットが登場し、コスト競争は益々厳しくなっている。企業での低コスト化の技術革新が求められるが、諸外国に比べ政府による予算支援が少ない我が国では、上述の国家戦略推進のため、更なる予算投入が必要である。

   

参考文献
[1] https://www.rocket.jaxa.jp/rocket/h3/
[2] https://www.rocket.jaxa.jp/rocket/epsilon/
[3] https://vdata.nikkei.com/datadiscovery/10space/
[4] 山崎勲: 国産ロケットH-2Aへの挑戦 日本の主力ロケット開発の軌跡, 武久出版, ISBN:9784894541399

第16回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年10月19日(火) 15:00~17:30
場所:zoom形式(オンライン)

「高エネルギー密度プラズマ科学の最近の動向から」(講演)
三間圀興 招聘教授 大阪大学レーザー科学研究所

概要・Abstract

これまで、高出力レーザー技術、レーザー核融合、レーザー粒子加速、高エネルギー密度の物質科学、地球惑星科学と宇宙デブリ除去への応用、真空破壊などの超高強度場の物理、並びにレーザー加工などのパワーレーザーの産業利用分野の研究開発において、大阪大学、量子科学技術研究開発機構、京都大学、東京大学や理化学研究所等の我が国の取組が世界をリードしてきた[1]。 一方、大型パワーレーザー施設の整備が海外で急速に進み、この分野の学術と産業利用が急速に進展している。米国のNIF、フランスのLMJに続き、中国が開発しつつあるナノ秒メガジュールレーザーや欧州ELIや韓国、中国、ロシアなどが開発しているフェムト秒10PWから200PWを目指す超高強度のパワーレーザーなど、様々なパルス幅、出力エネルギー、ピークパワーの高出力レーザーが整備され、実に様々な研究が急速に展開している[2][3]。 本講演では、我が国と欧米の取り組みの状況をレーザーイオン加速の最近の話題[4]も含めて紹介する。

   

参考文献
[1] 日本学術会議提言「パワーレーザー技術と高エネルギー密度科学の量子的飛躍と産業創成」2020.06. Pdf :URL
[2] Plasma Science: Enabling Technology, Sustainability, Security, and Exploration. The National Academies Press, Chap 3 and Chap.4(2020): Pdf is available at URL
[3] Opportunities in Intense Ultrafast Lasers, The National Academies Press (2018): Pdf is available at URL
[4] N.Iwata, A.Kemp, S.Wilks, K.Mima, and Y. Sentoku, et al., “Lateral confinement of fast electron and its impact on laser ion acceleration”, Phys. Rev. Express,(2021) Pdf: URL


「レーザー核融合の爆縮の基本原理と進展」(講演)
藤岡慎介 教授・副所長 大阪大学レーザー科学研究所

概要・Abstract

爆発は,急激に発生した圧力によって物体が外向きに散らばる現象であるのに対し,爆縮とはその圧力によって,物体がある一点に向かって収縮する現象である.爆縮に伴って,物体の密度が上昇すると同時に,断熱加熱によって中心部の温度も上昇する.中心点火と呼ばれる一般的なレーザー核融合方式では,爆縮によって高温 ・高密度の核融合プラズマを形成する.パワーレーザーで駆動される爆縮では,密度の低いプラズマが,密度の高いプラズマを押すという状況であり,流体力学的に不安定である (これは,プラズマと一緒に動く系から見ると,密度の小さいプラズマが密度の大きいプラズマを支えるという状況になっている).時間に対して擾乱振幅が指数関数的に成長するレイリー・テイラー不安定性を代表とする流体力学不安定性によって,爆縮途上にある核融合燃料が大きく変形,破断し,その結果として,低温なプラズマと高温なプラズマが混じりあい,高温の点火部の形成が阻害されるというのが,レーザー核融合において点火 ・燃焼に至らない最大の要因であった.幸いな事に,アブレーティブ安定化と呼ばれている流体力学的不安定性の抑制効果がレーザー核融合には存在する.擾乱の山頂がパワーレーザーによって選択的に削られる (アブレーションされる)現象である.アブレーティブ不安定性の効果を大きくするには,核融合プラズマの密度が低い必要があり,レーザー核融合点火のための高密度プラズマの生成と,流体の安定化の為の低密度プラズマの生成という一見矛盾する目標を実現するために,空間的にプラズマ密度を制御するという方法が取られてきた.この為に,レーザー核融合においてはレーザーパルス波形整形が重要な役割を果たす. 本講演では,この流体力学的不安定性を抑制するための長年の取組と,それが最近発表された,核融合出力1.3 MJ(エネルギー利得0.68)との関係について講演する.

   

参考文献
[1] The Physics of Inertial Fusion, S. Atzeni & J Meyer-Ter-Vehn, Oxford press.
[2] Review of the National Ignition Campaign 2009-2012, J. D. Lindl et al., Phys. Plasmas 21,(2014).

第15回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年10月1日(金) 15:30~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

「ヘリオトロン型磁場配位を利用した統計加速の実験室シミュ レーションの検討」
(Investigation of expeirimental simulation for stochastic acceleration using Heliotron-type magnetically confined configuration)(講演)
小林進二 准教授 京都大学エネルギー理工学研究所

概要・Abstract

統計加速現象は宇宙 ・天体で発生する高エネルギー粒子の加速機構として考えられており、高強度レーザーを利用した高エネルギー粒子生成が地上の実験室で行われている。ヘリオトロン型プラズマ閉じ込め装置Heliotron Jにおいて、非共鳴マイクロ波を真空磁場中に入射するとMeVを超える高エネルギー電子が生成されることが、シンクロトロン放射計測、X線スペクトル計測より確認された[1]。真空磁場中にマイクロ波の共鳴層がないこと、高エネルギー電子生成はマイクロ波パワーに対して非線形な特性を持つことから、マイクロ波と電子との確率的な相互作用による統計加速が起きていると想定される[2]。 今回ヘリオトロンJで観測された現象は真空で閉じ込め配位が形成されるヘリオトロン型磁場配位の特徴が生かされており、外部境界条件の制御性 ・計測機器設置の自由度が高いこと、m ~ kmオーダーの空間スケールをもつ磁力線構造を広範囲に変えられること等を活用することで、統計加速の諸問題に取り組む、新しい実験室シミュレーションへの展開が期待される。

   

参考文献
[1] S. Kobayashi, et al., Plasma Phys. Control. Fusion, 62 (2020) 065009.
[2] H. Laqua, et al, Plasma Phys. Control. Fusion, 56 (2014) 075022.

第14回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年8月26日(木) 15:00~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

「乱流駆動輸送の磁場配位効果(II)」
(Effects of magnetic configuration on turbulence driven transport (II))(講演)
田中謙治 教授 核融合科学研究所


概要・Abstract

次世代のヘリカル装置設計の方針として新古典輸送の低減だけでなく乱流駆動輸送を低減する磁場配位効果についての理論的検討が進められている。輸送を低減するための方針を決定するためには、理論計算だけでなく既存の異なる磁場配位における輸送を定量的に比較することにより明確な指針を得ることが期待できる。現在稼働中の最も大きいヘリカル/ステラレーター装置である LHD と W7-X において加熱条件および運転密度をそろえた比較実験を行った[1, 2]。電子サイクロトロン共鳴の中心加熱を用いた比較実験によると同程度の線平均電子密度で LHD は凹型の密度分布を形成することに対して、W7-X では凸型の密度分布を形成することが分かった。中心付近の電子温度は W7-X が高いが規格化位置ρ>0.5 では LHD の方が高く、イオン温度は LHD のほうが全空間領域でわずかに高いという結果が得られた。
 実験における乱流駆動によるイオンエネルギー輸送をパワーバランスから求めたイオン熱伝導係数χiexpから新古典イオン熱伝導係数χineoを差し引いてχiexpineoとして評価した。その結果、χiexpineoは LHD が W7-X の 1/6 程度であることが分かった。この結果は、非線形ジャイロ運動量シミュレーションの結果と定性的に一致している。W7-X よりの LHD のほうが Zonal flow が強く生成されることにより LHD においてイオンの異常輸送が低減されていることを示唆している。W7-X は LHD より一桁程度新古典輸送が低いが、これらの結果は新古典輸送の低減と乱流駆動輸送の低減が一致しないことを示している。磁場配位最適化においては新古典輸送と乱流駆動輸送の双方の同時低減が困難である可能性がある。
 講演では LHD,W7-X における電子温度加熱下におけるイオン温度上昇の制限や、LHD の同位体効果の研究成果についても報告する。

   

参考文献
[1] F. Wamer, K. Tanaka, P. Xanthopoulos, M. Nunami et al, submitted Phys. Rev. Lett.
[2] K. Tanaka, F. Wamer, K. Tanaka, P. Xanthopoulos, M. Nunami et al, FEC2020.

第13回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年8月10日(火) 13:30~15:00
場所:zoom形式(オンライン)

「高強度レーザーと物質の相互作用の背後にあるプラズマの役割と将来の展望」
(Role of plasma behind high intensity laser-matter interaction and future prospect)(講演)
James Koga 先生 QST 関西光科学研究所


概要・Abstract

Ultrahigh intensity lasers have been made possible through the invention of chirped pulse amplification (CPA) for which the Nobel Prize in physics was partially awarded to Donna Strickland and Gérard Mourou [1] (see [2] for a brief description of CPA). Since ultrahigh intensity lasers immediately ionize any material with which they interact, plasma dynamics plays an essential role. In this talk I will present the role of plasma in high intensity laser-matter interactions. In particular I will focus on plasma physics in laser wakefield acceleration [3], relativistic flying mirrors [4], and micro-bubble implosions to achieve electrostatic fields strong enough to probe vacuum polarization [5] and to create electron-positron pairs from the vacuum [6].

   

参考文献
[1] https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2018/summary/
[2] https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2018/popular-information/
[3] E. Esarey, C. B. Schroeder, and W. P. Leemans, Rev. Mod. Phys. 81, 1229 (2009).
[4] M. Kando, et al., Quantum Beam Sci. 2018, 2, 9 (2018).
[5] J. K. Koga et al., Matter and Radiation at Extremes 4, 034401 (2019).
[6] J. K. Koga et al., Physics Letters A 384, 126854 (2020).

第12回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年7月20日(火) 15:00~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

「乱流駆動輸送の磁場配位効果」
(Effects of magnetic configuration on turbulence driven transport)(講演)
田中謙治 教授 核融合科学研究所


概要・Abstract

次世代のヘリカル装置設計の方針として新古典輸送の低減だけでなく乱流駆動輸送を低減する磁場配位効果についての理論的検討が進められている。輸送を低減するための方針を決定するためには、理論計算だけでなく既存の異なる磁場配位における輸送を定量的に比較することにより明確な指針を得ることが期待できる。現在稼働中の最も大きいヘリカル/ステラレーター装置である LHD と W7-X において加熱条件および運転密度をそろえた比較実験を行った[1, 2]。電子サイクロトロン共鳴の中心加熱を用いた比較実験によると同程度の線平均電子密度で LHD は凹型の密度分布を形成することに対して、W7-X では凸型の密度分布を形成することが分かった。中心付近の電子温度は W7-X が高いが規格化位置ρ>0.5 では LHD の方が高く、イオン温度は LHD のほうが全空間領域でわずかに高いという結果が得られた。
 実験における乱流駆動によるイオンエネルギー輸送をパワーバランスから求めたイオン熱伝導係数χiexpから新古典イオン熱伝導係数χineoを差し引いてχiexpineoとして評価した。その結果、χiexpineoは LHD が W7-X の 1/6 程度であることが分かった。この結果は、非線形ジャイロ運動量シミュレーションの結果と定性的に一致している。W7-X よりの LHD のほうが Zonal flow が強く生成されることにより LHD においてイオンの異常輸送が低減されていることを示唆している。W7-X は LHD より一桁程度新古典輸送が低いが、これらの結果は新古典輸送の低減と乱流駆動輸送の低減が一致しないことを示している。磁場配位最適化においては新古典輸送と乱流駆動輸送の双方の同時低減が困難である可能性がある。
 講演では LHD,W7-X における電子温度加熱下におけるイオン温度上昇の制限や、LHD の同位体効果の研究成果についても報告する。

   

参考文献
[1] F. Wamer, K. Tanaka, P. Xanthopoulos, M. Nunami et al, submitted Phys. Rev. Lett.
[2] K. Tanaka, F. Wamer, K. Tanaka, P. Xanthopoulos, M. Nunami et al, FEC2020.

第11回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年7月16日(金) 13:30~
場所:zoom形式(オンライン)

「2流体プラズマの開拓 -非中性プラズマからのアプローチ-」
(What's two-fluid plasma? -exploring with non-neutral plasmas-)(講演)
比村治彦 教授 京都工芸繊維大学・電気電子工学系


概要・Abstract

電磁流体力学(MHD)ではプラズマは全体として電荷をもたない電流を流す電離気体と考えられている一方、先進プラズマ物理学ではイオン群と電子群はそれぞれ独立にイオンプラズマと電子プラズマを構成し、それらイオンプラズマと電子プラズマの2つの電磁流体によってプラズマが構成されていると考えられている。2流体プラズマ状態の可否を実証するために、我々はイオンだけからなる純イオンプラズマと電子からだけからなる純電子プラズマ、つまり、2つの非中性プラズマを用いて、2流体プラズマ状態の存在可否条件、閉じ込め特性、輸送を調べている。本セミナーでは、この研究の背景から最新の結果までを解説する。

   

参考文献
H. Goedbloed and S. Poedts, Principles of Magnetohydrodynamics (Cambridge)

第10回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年6月25日(金) 15:30~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

「レーザーによる微細構造形成とオペランド計測技術」
(Formation of laser induced periodic surface structure and its operando measurement)(講演)
橋田昌樹 特定准教授 京都大学化学研究所


概要・Abstract

本研究では、フェムト秒レーザー照射材料表面に形成される微細周期構造物 (LIPSS)[1]を先端ビーム (電子ビーム、X 線、レーザー)により時空間分解計測し形成機構を解明することを目指しています。微細構造物の大きさはレーザー波長の λ/13[2]~λ/25[3]と非常に小さくレーザー照射後数 100 ピコ秒程度までの表面プラズマ状態が構造形成に関わっていると言われており動的過程を計測するためには高い時空間分解能を有する先端ビーム (電子ビーム[4]、X 線、複合レーザービーム[5])が必要とされます。ここではレーザーアブレーションにより微細構造が何故形成されるのか?そのサイズはどこまで小さくできるのか?そしてその形状はどのように制御できるのか?という疑問を解決すべく先端ビームによるオペランド計測を実施することで微細構造の大きさや密度を決定するレーザーと物質との相互作用に関する物理機構を解明し新しい表面機能性付与のためのレーザー加工基盤を構築することを目標としています。講演ではレーザー誘起される微細周期構造物の現状と今後取り組もうとしている計測手法を紹介します[6]。

   

参考文献
[1]橋田昌樹他,レーザー学会 43 巻 11 号(2014)745-751.
[2] M. Hashida et al, J. Laser Micro/Nano Eng., 9 (2014) 234-237.
[3] A. Irizawa et al Appl. Phys. Lett. 111(2017)251602.
[4] S. Inoue et. al., Sci. Rep 10(2020) 20387.
[5] Y. Furukawa et. al., Appl. Surf. Sci. 515(2020)146047.
[6] 橋田昌樹、レーザ加工学会誌 28 巻1号(2021)39-42.

第9回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年6月15日(火) 14:00~16:00
場所:zoom形式(オンライン)

「非線形ダイナミクスに基づく自己組織化ナノ材料加工」
(Self-Organized Materials Nanoprocessing based on Nonlinear Dynamics)(講演)
深見一弘 准教授 京都大学大学院工学研究科・材料工学専攻


概要・Abstract

材料科学や化学における自己組織化は、熱力学平衡で発現する自己集合(Self-assembly)と非平衡状態における時空間パターン形成(Spatiotemporal pattern formation)に大別される。前者は分子間力といった平衡状態で支配的な因子によって引き起こされるのに対し、後者はポジティブフィードバック (自己触媒反応)のような非線形な効果が顕著となる非平衡状態で発現する。我々は電気化学 (酸化還元)反応における時空間パターン形成の体系的な理解と、それに立脚したナノ材料加工に取り組んでいる。 本講演では、時空間パターンのナノ閉じ込めによる高規則性らせん状ナノ構造形成について紹介する。Si は酸化剤と HF を含む液に浸漬すると酸化還元反応により Si が腐食(溶解)する。Si 表面に Pt ナノ粒子を担持するとそれが触媒となり、Pt/Si 界面で腐食が加速され、Pt 粒子が Si 内部へと貫入し、ナノポアが形成する。このとき、条件によっては Pt 触媒上での反応 (酸化剤の分解反応)が時空間パターンを発現する。Pt ナノ粒子の表面積は極めて小さく、時空間パターンの伝播が抑制されるため (ナノスケールへの時空間パターンの閉じ込め)、境界条件を満たそうと粒子が回転し、その結果らせん状ナノポアがエッチングにより形成する [1]。酸化剤の分解反応をモデル化し、シミュレーションによってらせん状構造の回転方向 (キラリティ)制御について検討したところ、Pt 表面と並行な対流を導入した場合、極めて弱い対流下で自己組織化的にキラリティの偏りが生じることを見出した[2]。 このように本研究は、キラリティと時空間パターン形成の境界にあたる新領域を開拓する端緒になるものと期待される。

   

参考文献
[1] T. Yasuda, Y. Maeda, K. Matsuzaki, Y. Okazaki, R. Oda, A. Kitada, K. Murase, K. Fukami, ACS Appl. Mater. Interfaces 11, 48604-48611 (2019).
[2] T. Yasuda, M. Nakata, M. Miyamoto, A. Kitada, K. Murase, K. Fukami, J. Phys. Chem. C 125,7240-7250 (2021).

中国西南物理研究所 核融合科学センター (SWIP-CFS)とプラズマ科学研究ユニットとの間で、 核融合プラズマ分野の学術研究協力に関するMOUを締結しました。

日時:2021年6月14日(月)(2021年5月6日より有効)
場所:zoom形式(オンライン)

MOU for Academic Cooperation between Center for Fusion Science, Southwestern Institute of Physics (SWIP) and Non-linear/Non-equilibrium Plasma Science Research UNIT


概要

令和2年度第2回運営協議会(3月30日開催)において、中国西南物理研究所核融合科学センター(SWIP-CFS)と本プラズマ科学研究ユニットとの間で学術研究協力に関するMOUの締結を行いました(2021年5月6日)。Southwestern Institute of Physics (SWIP : 中国成都)は、Institute of Plasma Physics (ASIPP:中国合肥)と並ぶ中国の核融合研究の拠点であり、同研究所の Center for Fusion Science(センター長:Min Xu 教授)では、これまでのトカマク装置HL2Aに加え、昨年12月にHL2Mと呼ばれる非円形断面のトカマク装置が完成し、2021年5月にON-LINEで開催されたIAEA主催の核融合エネルギー会議(2020FEC)においても最新成果が報告されています。
  同センター長からも、HL2AやHL2Mを用いた実験研究も歓迎するとのことでした。本研究協力の枠組みを利用して、今後、SWIPとの協力研究が一層進展し、核融合プラズマ研究の一層の発展を期待します。(岸本)

第8回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年6月11日(金) 13:30~
場所:zoom形式(オンライン)

「超高強度レーザーの進展」
(Ultra-high Intense Lasers Today and Tomorrow)(講演)
桐山博光 グループリーダー 量子科学技術研究開発機構(QST)・関西光科学研究所


概要・Abstract

30 兆分の 1 秒(=30 フェムト秒=30 fs)の極めて短い時間に 100 万 kW 級火力発電設備100 万基分に相当する 1 千兆 W (=1 ペタワット=1 PW)の超高強度出力発振するレーザー(J-KAREN)開発とそのレーザー光の高度化技術開発を行っている。超高強度レーザーを集光して物質に照射すれば、既存の手法では到達できない高温高圧状態や強力な電場 ・磁場を生成できる。このような極限状態 (高エネルギー密度状態)を研究する 「高エネルギー密度科学」が世界で精力的に研究されている。ここでは、J-KAREN レーザー装置を中心に、超高強度レーザーとは何か、その増幅技術、時間 ・空間制御技術について述べるとともに、超高強度レーザー生成プラズマによる荷電粒子加速などの応用例や世界の超高強度レーザーの開発の現状や今後の展開についても紹介する。

   

参考文献
[1] H. Kiriyama, A. S. Pirozhkov, M. Nishiuchi, Y. Fukuda, A. Sagisaka et al., “Petawatt Femtosecond Laser Pulses from Titanium-Doped Sapphire Crystal,” Crystals, 10, 783 (2020).
[2] H. Kiriyama, A. S. Pirozhkov, M. Nishiuchi, Y. Fukuda, K. Ogura et al., “High-contrast, highintensity repetitive petawatt laser,” Optics Letters, 43, 2595-2598 (2018).
[3] H. Kiriyama, M. Mori, A. S. Pirozhkov, K. Ogura, A. Sagisaka et al., “High-Contrast, HighIntensity Petawatt-Class Laser and Applications,” Invited Paper IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, 21, 1601118 (2015).

28th IAEA Fusion Energy Conference (2020FEC) 報告・意見交換会 EX session

日時:2021年5月28日(金) 15:30~18:00
場所:zoom形式(オンライン)

京大ユニット・量子科学技術研究開発機構(QST)
報告:石澤明宏,本多充,今寺賢志,南貴司(京大ユニット)


HP

28th IAEA Fusion Energy Conference (2020FEC) 報告・意見交換会 TH session

日時:2021年5月25日(火) 13:30~15:30
場所:zoom形式(オンライン)

京大ユニット・量子科学技術研究開発機構(QST)
報告:岸本泰明(京大ユニット)


HP

第7回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年3月30日(火) 13:30~15:00
場所:zoom形式(オンライン)

「超高ベータプラズモイド:FRC(反転磁場配位)の未解明な謎」
(Unexplained Mysteries of Extremely High Beta Plasmoid: FRC)(講演)
浅井朋彦 教授 日本大学 理工学部


概要・Abstract

プラズマの熱圧力と磁気圧の比を ベータ(β)値 と呼び,磁場閉じ込めプラズマにおいてその体積にわたる平均値は,プラズマ電流と磁束が完全に直交する場合に最大(〜1)となります。この状態が実現するトーラスが実在し,磁場反転配位(Field-Reversed Configuration: FRC)と呼ばれます。FRCの磁場構造は,(1流体)電磁流体力学(MHD)におけるGrad-Shafranov方程式の平衡解としても得られますが,トロイダル磁場をもたないFRCはMHD的には非常に不安定です。 一方で,実験で生成されるFRCは,特に制御することなくアルヴェン時間の数十倍の間,安定に存在します。また,磁気ヘリシティを持たないにも関わらず,アルヴェン時間程度の間に体積が一桁以上変化するような超音速衝突合体過程を経てもFRCに再緩和する,ロバストな安定性を持つこともがわかってきています。また,磁場強度がゼロとなる磁気中性点を内部に持つFRCでは,イオンの平均ラーモア半径はプラズマの特性長と同程度であり,「MHDの殻を被った粒子集団」とも言えるような状態で,多くの点で他の閉じ込め方式とは異なる性質を持つことが報告されています。 この特異な閉じ込め方式:FRCについて最近の研究を紹介し,未解明な課題について考えてみたいと思います。(文献[1,2]参照)

   

参考文献
[1] 浅井朋彦,髙橋 努,郷田博司,岸本泰明「極限的高ベータ配位:FRCの閉じ込め・安定性をどう理解するか?」J. Plasma Fusion Res. 96, 165 (2020).
[2] L.C. Steinhauer, “Review of field-reversed configurations,” Phys. Plasmas 18, 070501 (2011).

第6回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年3月17日(水) 13:30~15:00
場所:zoom形式(オンライン)

「新しい切り口で見たレーザーー溶液中ナノ粒子の相互作用と展望ー」
(New perspectives on the laser-nanoparticle interactions and outlook)(講演)
中嶋 隆 准教授 エネルギー理工学研究所・エネルギー機能変換研究部門


概要・Abstract

我々は現在、レーザーを使って(a)物質状態を調べるタイプのテーマ[1]と(b)ものを作るタイプのテーマ[2]の2本立てで研究を進めている。今回の研究討論会では主に、(a)に属するナノバブルのダイナミクスについて議論をする。ここでいうナノバブルとは溶液中に存在する微小なバブル(気泡)のことであり、溶液中ナノ粒子に光を照射すると光熱効果によって簡単に発生する[3]。つまり、ナノ粒子の光応答とナノバブルのダイナミクスは表裏一体の関係にある。種々の条件を変えてナノバブルの計測を行った結果、ナノバブルのサイズ変化はこれまで考慮されたことがなかった数密度に依存することがわかった。本討論会では上記研究について議論した後、我々が最近開始した、電解ナノバブルのレーザー検出についても紹介する。これは電気化学の研究者と連携した学際研究であり、日本のエネルギー政策とも密接に関連した研究テーマである。

   

参考文献
[1] Ageev et al., Appl. Phys. Lett. 107, 041904 (2015); Maurya et al., Optics Express 26, 21615 (2018); Nakajima et al., Sci. Rep. 6, 28667 (2016).
[2] Maurya et al., Appl. Surf. Sci. 427, 961 (2018); Kashihara et al., Sci. Rep. (2018).
[3] Fang et al., Nano Lett.13, 1736 (2013).

第5回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年3月16日(火) 13:30~15:00
場所:エネルギー理工学研究所北4号棟(321号室)+ zoom(オンラインと対面のハイブリッド形式)

「ワイベル不安定性が支配するプラズマ諸現象と理論的背景ー宇宙からレーザー核融合までー」
(Various Plasma Phenomena governed by the Weibel Instability and Its Theoretical Background
― From Space Physics To Laser Fusion Research ―)(講演)
田口俊弘 客員研究員 日本原子力研究開発機構


概要・Abstract

非等方速度分布を持つプラズマにおいて、その自由エネルギーの解放メカニズムの1つとして見出された「ワイベル不安定性」は、静電場を成長させる縦方向の2流体不安定性に対して、静磁場を成長させる横方向の不安定性としてとらえることもできる。このため、ビーム・プラズマ不安定性による強磁場発生のメカニズムとして、宇宙から高速点火レーザー核融合まで、様々な分野で現れる現象を理解するための重要な要素になっている。このセミナーにおいては、講演者がこれまで研究を行ってきた衝突性や外部磁場の有無などを含めた様々な状況下でのビーム・プラズマ相互作用におけるワイベル不安定性について、その線形理論から非線形発展まで、色々と話をさせていただく予定です。

   

参考文献
[1] T.Taguchi, T.M.Antonsen Jr., C.S.Liu and K.Mima, Structure Formation and Tearing of an MeV Cylindrical Electron Beam in a Laser-Produced Plasma, Phys. Rev. Lett., 86, 22 (2001) pp.5055-5058.
[2] T.Taguchi, T.M.Antonsen Jr., K.Mima, Stagnation of electron flow by a nonlinearly generated whistler wave, J. Plasma Phys., (2017) 905830204-1-10.
[3] 田口俊弘, 強磁場下での電子ビーム不安定性による構造形成, プラズマ・核融合学会誌 93, 4 (2017)182‐187.
[4] E.S.Weibel, Spontaneously Growing Transverse Waves in a Plasma due to an Anisotropic Velocity Distribution, Phys. Rev. Lett., 2, 3 (1959) pp.83-84.

第4回 京都大学 プラズマ科学研究ユニット セミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2021年3月1日(月) 15:00~16:30
場所:zoom形式(オンライン)

「LHDプラズマにおける圧力駆動型MHD不安定性に対する運動論的MHDシミュレーション研究」
(Kinetic MHD simulation study of pressure driven MHD instabilities in LHD plasmas)(講演)
佐藤雅彦 助教(Dr. Masahiko Sato) 核融合科学研究所・核融合理論シミュレーション研究系


概要・Abstract

LHD実験では、体積平均ベータ値が約5%の高ベータプラズマが得られているが、MHDモデルによる解析では、圧力勾配駆動型MHD 不安定性が非常に不安定な計算結果が得られる。この実験結果と MHD 理論予測との間の不一致を解決するため、熱イオンの運動論的効果を取り入れたシミュレーション解析を行った。その結果、熱イオンの運動論的効果が不安定性の線形成長率を低下させる働きがあることがわかった。 これは、ヘリカルリップルに捕捉された捕捉熱イオンが、歳差ドリフト運動によってポロイダル方向に早く運動し、不安定性に対して応答しにくくなることに起因する。この抑制効果は、磁気レイノルズ数が増加するほど強くなり、実験に対応した高磁気レイノルズ数領域では、高圧力プラズマが維持される計算結果を得ることに成功した。


参考文献
[1] M. Sato and Y. Todo, Nucl. Fusion 59 094003 (2019).
[2] M. Sato and Y. Todo, J. Plasma Phys. 86 815860305 (2020).

意見交換会:「那珂研オンサイトラボ活動の現状と今後」

日時:2021年2月22日(月) 16:00~17:30
場所:zoom形式(オンライン)

量子科学技術研究開発機構(QST)那珂核融合研究所 鎌田裕副所長,
先進プラズマ研究部 井手俊介 部長・成田絵美 研究員

第3回 京都大学 プラズマ科学研究ユニットセミナー(プラズマ数理研究領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2020年11月27日(金) 15:30~17:00
場所:エネルギー理工学研究所セミナー室1(本館W-503E)+ zoom(オンラインと対面のハイブリッド形式)

「反応閾値と数理的拡散モデルから解く慢性蕁麻疹の病態と治療」
(Approach to the pathogenesis and treatment of chronic spontaneous urticaria
by mathematical diffusion and threshold model of histamine) (講演)
秀 道広 広島大学大学院医系科学研究科 皮膚科学 教授・副学長/ナノデバイスバイオ融合研究所副所長


概要・Abstract

蕁麻疹は、皮膚の一過性、限局性の赤みと膨らみが出没する疾患で、その病態は、皮膚に分布するマスト細胞が何らかの機序で活性化され、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されて血管と神経を刺激することで説明される。実際、多くの蕁麻疹はヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)により完全に抑制することができる。しかし、抗ヒスタミン薬では全く制御不能な例もあり、そもそものマスト細胞活性化機序は多くの場合不明である。また、皮膚に分布するマスト細胞が一斉にヒスタミンを遊離するだけであれば、実臨床で見られる円形、環状、花弁状などの皮疹(皮膚症状)の形の出現を説明できない。

演者らは、慢性蕁麻疹における劇的とも言える抗ヒスタミン薬の効果と様々な皮膚症状のパターンに着目し、これらを説明し得る血液凝固系路の関与を明らかにするとともに反応拡散モデルに基づく数理モデルを作成し、わずかなヒスタミン遊離の揺らぎが生じる様々な皮疹パターンをインシリコで再現した。

医学、生物学の分野における分子生物学の発展は大きく発展したが、今後様々な組織レベルでの形態とその変化を数学的に解読することが新たな病態解明をもたらし、医学への貢献を果たすことを期待したい。

第2回 京都大学 プラズマ科学研究ユニット セミナー(核融合プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2020年10月19日(月) 13:00~15:00
場所:zoom形式(オンライン)

「乱れと流れをアクティベートする新しい磁場閉じ込めプラズマの開拓」
(Voyage to innovative plasma confinement activating turbulence and zonal flows)(講演)
仲田資季 准教授(Dr. Motoki Nakata) 核融合科学研究所・ヘリカル研究部


概要・Abstract

核融合炉の実現を目指す上での重要な研究課題のひとつに、炉心プラズマ中に発達する「乱れ」すなわち乱流現象の理解と制御があり、近年の物理学上の重要課題としても掲げられている[1]。大小様々に発達した乱れはプラズマ中の熱や粒子を外へと輸送し(乱流輸送)、閉じ込め方式に依らず炉心プラズマの閉じ込め性能を阻害してしまう。一方、乱流渦が非線形的な相互作用を重ねた結果として、ゾーナルフローと呼ばれるコヒーレントな「流れ」構造が形成される場合がある。ゾーナルフローは乱流輸送を抑制する機能を持つため、炉心プラズマを高い閉じ込め状態に導く鍵となっている(例えば文献[2])。 本研究では『プラズマの非線形性(乱れ)や構造形成(流れ)に由来する機能を自在に活性化(アクティベート)し、乱れなきプラズマ閉じ込めを創成できるか?』という新たなブレークスルーに繋がる問いを動機として、新配位創成研究を推進している[3]。特に、閉じ込め磁場の3次元幾何構造の多様性や高い自由度に着目した研究を展開している。乱流の駆動源である線形不安定性(イオン温度勾配不安定性, 捕捉電子不安定性, etc.)の抑制を指針に据えた従来研究[4]に対し、本研究では非線形過程であるゾーナルフロー励起を強化する新たな指針の下で磁場構造を探究している。そのために必要となる、乱流・ゾーナルフローのモデリング研究や数値的な配位探索手法、既存実験による理論モデル検証などの進展[5]を紹介しながら議論を行いたい。


参考文献
[1]「物理学70の不思議」 (29番および30番), 日本物理学会誌72巻, 第9号 [2] T. -H. Watanabe, H. Sugama et al., Phys. Rev. Lett. 100, 195002 (2008)
[3] 仲田資季 他、FUSION2030研究会・週イチZOOM (2020年9月18日)
[4] H. E. Mynick, N. Phompery, et al., Phys. Rev. Lett. 105, 095004 (2010)
[5] 仲田資季 他、日本物理学会2020秋季大会、乱流最適化配位シリーズ講演(2020年9月8日)

「核融合エネルギー分野における連携協力」に関する覚書締結の報告とJT-60SAの現状について

日時:2020年9月2日(水) 15:00~17:00
場所:zoom形式(オンライン)

関連組織:量子科学技術研究開発機構(QST)核融合エネルギー部門、京都大学非線形・非平衡プラズマ科学研究ユニット
第一部:記念式典:「核融合エネルギー分野における連携協力」に関する覚書の締結
第二部:研究課題の意見交換(第一部終了後~17:00)

第1回 京都大学 プラズマ科学研究ユニット セミナー(光量子基礎プラズマ領域+ZE拠点広帯域課題合同)

日時:2020年8月26日(水) 16:00~17:30
場所:zoom形式(オンライン)

「重粒子がん治療におけるプラズマ物理の役割」(Role of Plasma Physics in Heavy Particle Cancer Therapy)(講演)
森林健悟 上席研究員(Dr. Kengo Moribayashi) 量子科学技術研究開発機構・量子生命科学領域


概要・Abstract

重粒子線がん治療は他の放射線がん治療に比べて体に優しい治療法と言われている。これは、他の放射線と比べて少ない線量で治療できるためである。このことは古くから分かっていたが、少ない線量で治療ができる理由は現在でも不明である。そこで、この解明を目指して、シミュレーション研究を行っている[1]。重粒子線とX線などの他の放射線との大きな違いとして、エネルギー付与の空間分布があげられる。他の放射線ではエネルギー付与は全空間に、ほぼ一様であるのに対して、重粒子線の場合、軌道付近にのみ非常に大きなエネルギー付与が与えられる。この大きなエネルギー付与がプラズマを発生させることを新しく開発したシミュレーンモデルで示す。この新規モデルでは動径線量(重粒子線の軌道からの距離の関数として表される局所線量)を計算し、プラズマの動径線量への寄与を議論する[1]。動径線量は重粒子線がん治療の治療計画で細胞の生存率を計算するのに放医研とGSIで使われている[2]。さらに、放医研での最新の実験結果で得られた磁場と重粒子線との共鳴効果[3]とその解明を目指した仮説[4]に関しても言及する。


参考文献
[1] K. Moribayashi, Jpn. J. Applied Phys. 59 SH0801/1-7 (2020).
[2] Y. Kase, T. Kanai, N. Matsufuji, et al., Phys. Med. Biol. 53, 37 (2008).
[3] T. Inaniwa et al., Int. J. Radiat. Bio., 95, 720 (2019).
[4] 森林健悟、日本物理学会2020秋季大会(2020年9月9日)

「IAEA FEC2020のプログラムについて(核融合プラズマ)」

日時:2020年7月13日(月) 15:00~
場所:zoom形式(オンライン)

IAEA主催核融合エネルギー会議 FEC2020のプログラムについて(報告)