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研究内容

A-1:核融合プラズマの乱流輸送・MHD現象の理論・シミュレーションに関する研究

A-1-1「トカマク型核融合プラズマ」中に発生する揺らぎの数値シミュレーション

 粒子モデルに基づく大規模シミュレーションにより、核融合装置の一つであるドーナツ形状したトカマクプラズマ中で発生する乱流構造を再現することに成功しました。このシミュレーションでは、プラズマ全体を凡そ3000万個の粒子(イオン)を正確に追跡することによって再現しています。
 右上図(b)は、これらの粒子の中から3000個をランダムにピックアップしたものです。これらの粒子は電場や磁場を介して互いに相互作用し、その結果プラズマ中には、左図(a)に見られるような電磁場の揺らぎ(乱流)が発生します。この図では、赤色は「正」のポテンシャル、青色は「負」のポテンシャルに対応しますが、左図(a)あるいは右下図(c)から分かるように、トカマクプラズマ中に発生する揺らぎは、ドーナツ断面では多数のミクロな渦構造を、ドーナツ方向には細長いマクロな構造を持ち、非等方な分布をしているのが特徴です。

 このような揺らぎがプラズマに大きな輸送を引き起こし、プラズマの閉じ込めを低下させますが、一方では、このような揺らぎの存在がプラズマ中に様々な構造が生じる要因であることも分かってきており、核融合エネルギーを目指した研究のみならず、幅広い学術分野の研究対象となっています。その構造を理解し、またそれらを如何に抑制するかが核融合研究の重要課題の一つとなっています。

参考文献

  1. Theory of self-organized critical transport in tokamak plasmas Y. Kishimoto, T. Tajima, et al., Phys. Plasmas 3, No.4, 1289-1307 (1996)
  2. Totoidal mode structure in weak and reversed magnetic shear plasmas and its role in the internal transport barrier Y. Kishimoto, J.-Y. Kim et al., Plasma Phys. Controlled Fusion 41, A663-A677 (1999)
  3. Discontinuity model for internal transport barrier formation in reversed magnetic shear plasmas Y. Kishimoto, J.Y. Kim, et al., Nuclear Fusion 40, No.3Y, 667-676 (2000)
  4. シミュレーションで見るトカマクの微視的乱流 日本原子力研究所 那珂研究所 炉心プラズマ研究部 プラズマ理論研究室(岸本泰明)プラズマ・核融合学会誌 Vol. 76, No.1, CD-ROM (2000)
  5. 異常輸送(講座:邦文)岸本泰明, プラズマ・核融合学会誌 Vol. 76, No.12, 1280-1308 (2000)

A-1-2「多重拘束マルチモーメント概念」に基づいた新たな 数値計算手法の開発

 プラズマのダイナミックスをより正確に再現する方法として、6次元の位相空間に格子を設けて、速度分布関数を連続媒質として数値的に解くVlasov シミュレーション(核融合プラズマでは、磁力線による旋回運動を平均化した位相空間5次元ジャイロ運動論的Vlasovシミュレーション)が世界的に広く用いられています。Vlasovシミュレーションは、粒子シミュレーションに比べて数値ノイズが低い半面、高次元の位相空間を直接扱うため、格子点数が膨大となり、位相空間の微細構造を保持したシミュレーションは容易ではありません。特に、位相空間の微細渦構造やセパラトリックス近傍での引き伸ばしや畳み込みが、数値散逸(数値エントロピー)を増大させる要因となり、高精度シミュレーションや多階層シミュレーションを行う上で大きな障害となっています。
 そのようなVlasovシミュレーションの数値計算手法として、これまでの歴史では、有限差分法や有限体積法を基礎とした解法が広く用いられてきました。それらは、空間微分や数値流束を評価する上で、物理的意味とは独立に、離散化したグリッド値をいかに「滑らか」に結ぶかを第一義の拘束条件としていました。
 一方、本研究室では、「数値計算で高精度を得るためには、グリッド値を『滑らか』に結ぶことが第一義ではなく、支配方程式に基づいて物理的に意味のある拘束条件の下で離散化を行うことが本質的である」との着想に基づいて、「多重拘束マルチモーメント概念」を新しく提案しました。この概念では、複数の物理モーメント値を参照することで精度を確保し(図1)、更にそれらを支配方程式のモーメントに沿って独立に時間積分することで、物理的に意味のある多重の拘束条件を課しています。
 この有用性を検証するため、2次元鍵型分布の剛体回転を100周行った結果を、3次風上差分法、保存型IDO法と比較して図2に示します。3次風上差分法の16分の1、保存型IDO法の4分の1のメッシュ数しか用いていないにも関わらず、100周後も初期の構造が高精度で捉えられていることがわかります。この結果は、「多重拘束マルチモーメント概念」が、微細構造の再現に優れ、新たな数値計算手法の概念を開拓するものであることを示唆しています。

参考文献

  1. Kenji Imadera, Yasuaki Kishimoto, Daisuke Saito, Jiquan Li and Takayuki Utsumi, “A numerical method for solving the Vlasov-Poisson equation based on the conservative IDO scheme”, Journal of Computational Physics 228 (2009) 8919.
  2. Takafumi Kawano, Kenji Imadera, Jiquan Li and Yasuaki Kishimoto, “Numerical Method for Eulerian Vlasov simulation based on the multi-moment scheme”, 6 (2011) 2401097.



A-2:高強度レーザーと物質相互作用と「高エネルギー密度科学」に関する研究

 高強度レーザーを様々な物質に照射すると、高いエネルギー密度状態のプラズマ(相対論プラズマ)を生成することが出来ます。この相対論プラズマを利用することにより、レーザー核融合やコンパクトな高エネルギー粒子加速器、高強度・極短パルスのX線源やガンマ線源といった様々な応用研究が展開されています。
 本研究室では、原子・分子過程や粒子間の衝突・緩和過程を自己無撞着に取り入れた拡張型3次元電磁粒子コード(EPIC3D:3-Dimensional Extended Particle based Integrated Code)を用いて、そのような高強度レーザーとクラスターの相互作用とそれに伴う高エネルギーイオンの生成の大規模シミュレーションを行っています。

参考文献

  1. Y. Fukuda, Y Kishimoto, T. Masaki and N. K. Yamakawa, “Structures and dynamics of cluster plasmas created by ultra-short intense laser fields”, Phys. Rev. A 73, 031201(R)/1-4 (2006).

A-3:原子・緩和過程を取り入れた基礎・自然・宇宙プラズマに関する研究

 中性媒質(固体・液体・気体)における状態変化は、「相転移」として熱平衡状態の仮定の下に理論基盤が構築されてきましたが、中性媒質からプラズマへの状態変化を「相転移」として扱った例はありません。これは、両者の中間状態である電離過程の複雑性が極めて高く、熱平衡状態を仮定した従来の相転移概念の導入が困難なことによります。
 そこで本研究室では、図1に示されるように、中世媒質からプラズマへの「相転移」やそこでの基礎過程を再現することを目的とした、原子・分子過程や粒子間の衝突・緩和過程を自己無撞着に取り入れた拡張型3次元電磁粒子コード(EPIC3D:3-Dimensional Extended Particle based Integrated Code)の開発を行っています。
 図2は、このコードを用いて行ったプラズマ相転移の典型例である放電・雷過程のシミュレーション結果を示しています。ネオン(Ne)の高圧ガスに静電界を印加したとき、初期に配置したNe+2の微小な電離スポットから放電が分岐的に進行していることがわかります。
 さらに現在は、従来の実空間2次元配位から3次元配位への拡張を行っており、図3は、3次元放電シミュレーションの初期結果を示しています。これまで2次元で見られたような放電の突発的な発生や放電路の枝葉構造などが再現できていることがわかります。

参考文献

  1. 岸本泰明,“物質の電離ダイナミックスと構造形成のシミュレーション”, プラズマ・核融合学会雑誌, Vol.84, 484 (2008).



A-4:荷電粒子多体系・ビームプラズマ・非中性プラズマの構造と制御に関する研究

作成中

A-5:大規模シミュレーションを中心に据えた遠隔共同システムに関する研究

A-5-1 遠隔共同研究システム〜IRIS・SIMON〜

 計算科学に基づく大規模シミュレーションは、理論・実験と並ぶ第三の手法として様々な科学・技術分野で積極的に活用され、従来の理論や実験手法では解明が困難な複雑現象解明の新しいアプローチとして期待されています。本研究では、地域的あるいは分野的に分散した複数の共同研究者が関与する大規模シミュレーション研究を 効率的に推進するため、SImulation MONitoring(SIMON)と総称した遠隔共同研究システムを研究開発することにあります。システムの中核をなす機能は、スーパーコンピュータ上で起動しているシミュレーション(クライアント)から外部ワークステーション(サーバ)に向けて様々の作業依頼を送信する「トリガー手法」に基づく「クライアント・サーバコントロールシステム」です。外部サーバは、データ転送や解析、あるいは画像処理などの依頼情報のみをシミュレーションから受け取り、その内容に従って独立にそれらの作業を行います。また、サーバはこれらの最新情報や更新結果をシミュレーションに関与する共同研究者が時間と場所を問わずモニターできるようにWebに逐次配信します。 この機能によって、シミュレーション研究に関与する共同研究者は、シミュレーション結果を、 様々な環境において最新情報や更新結果をWeb browserで確認することが出来ます。
 本手法は、シミュレーション後に様々の解析を行う従来の「ポストプロセス(Post-process)処理」に対して、シミュレーション実行中に随時解析を行う「アップデート(Up-date) 処理」の新提案として位置づけています。




 昨今のハードウェアとしての計算機の発展は日進月歩であり、それとともに数値アルゴリズムや並列計算手法などのソフトウェアの進展も目覚ましいものがあります。 実際、これまで現実的でなかった規模のシミュレーションが可能になり、階層間の相互作用や連結といった概念も浸透しつつあります。しかし、計算機の性能向上や計算手法の進展だけがシミュレーション研究を成功に導くものではありません。シミュレーションは大規模になればなるほど実験に近くなり、膨大なデータの中から目的とする現象を見出すのは研究者や研究グループの総合的な能力にゆだねられます。 大型装置を用いたプロジェクト実験では、計画の立案から実験の実施、データの解析や検討、現象の同定や論文化まで、多くの研究者や技術者が様々の役割分担のもとで研究に参画することによって目標が 達成されます。 シミュレーション研究においても、コードを実験装置と考えれば、初期条件の設定やシミュレーションの 実行・監視、シミュレーション後のデータ処理や解析などは基本的には実験研究と同じであり、それらすべてを一人の研究者が行うことは困難です。解明すべき問題が複雑になればなるほど専門分野の異なる多くの研究者の関与が不可欠となり、グループとしての取り組みがシミュレーション研究における課題解決能力や競争力を左右すると言えます。
 多くの研究分野において、情報の収集や配信、交換や共有といったソフトウェア的な取り組みよって得られるメリットは実験装置などのハードウェアと同等に重要であり、それらの取り組みに比例して課題解決能力も向上することになり、ネットワークを介して共同研究者の間でシミュレーションを共有することは、それだけでも研究を推し進める要因になるとともに、それらを効率的な情報伝達システムや解析システムと組み合わせることができればさらに大きな発展が期待できます。 このことから、SIMONシステムを一つのコンテンツと見立て、「関連する研究者との密接な連携」を コンセプトにInternational Remote Internet collaboration Sysyem:IRISの研究開発も行っていまする。飛躍的な進歩を遂げるIT技術を駆使し、シミュレーション研究に直接参加できるシステムの研究開発を行っています。



参考文献

  1. Y.Kishimoto, A.Sugahara and J.Q.li "Remote collaboration system based on large scale simulation"Fusion Engineering and Design 83 issues 2-3, 434-437 (April 2008)
  2. 菅原章博、岸本泰明 "大規模シミュレーションを中心に据えた遠隔研究システム"Journal of Plasma and Fusion Research 84, No.1, 51-61 (2008)