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物質の第四の状態 : プラズマ



“構造の起源を問う”プラズマ物理学

プラズマ状態は、実は、私たちの身の回りや、自然界に数多く見ることができます。
蛍光灯やネオンサインの中にはプラズマが入っていますし、瞬時ですが、雷も空気がプラズマ化したものであり、オーロラもプラズマです。
また、太陽表面に発生するプロミネンスや、コロナ、さらに銀河系や星が形成される宇宙空間やブラックホール近傍も磁場と相互作用するプラズマが重要な役割を果たすと考えられており、地上ではあまり意識されませんが、宇宙の実に99%がプラズマ状態にあります。
プラズマは、地上の小さなスケールから宇宙規模の大きなスケールまで様々な自然の存在形態や構造形成に深く関与しています。

ここに四枚の写真を示します。
何かボヤッとしていて何の写真ですが、それぞれは、あるものの一部を拡大したものです。
これらが何か想像がつくでしょうか。

それではこの一枚一枚を見ていきましょう。
最初はオーロラの一部を拡大したもの、二番目は太陽フレアーの一部を拡大したもの、三番目は"トカマク"と呼ばれる核融合装置で作られたプラズマで、内部輸送障壁と呼ばれる状態を拡大したもの、四番目は雷雲から電離層に向かって駆け上がる稲妻の一部を拡大したもので、これらはいずれもプラズマが本質的な役割を果たす現象です。
これらの図から以下の二つの重要なことが分かります。

一つは、ここで挙げた例は必ずしもまだその物理過程が解明されていない課題であり、各々の分野で勢力的に現在研究が進展している分野である点です。
例えば、稲妻などは長い研究の歴史にも関わらず、なぜこのような形になるのか、その全貌は明らかになっていません。

二つ目は、プラズマを限定された"ある一部分"だけを見ると全体的にボヤッとした取り留めのない状態のように見えますが、一歩さがって広い視野に立って"全体"を把握すれば、美しさを伴った多彩な構造を示している点です。
特にオーロラなどは芸術の領域に入りますし、太陽フレアーや稲妻などは自然のダイナニズムを感じさせてくれます。

この「プラズマ」が創出する様々な物理現象の探求は、次世代のエネルギー源として期待されている核融合研究や、プラズマが深く関与する宇宙や天体物理研究、さらには幅広い物質科学や高エネルギー密度科学の進展に重要な役割を果たします。
このような最先端の科学分野を開拓するため、統計理論やカオス理論、乱流理論や非線形理論、プラズマのマクロな運動を扱う流体力学やミクロな原子・分子過程を扱う原子物理学、複雑なプラズマの粒子運動やレーザーに代表される光量子と物質との相互作用を記述する最先端のシミュレーション手法を駆使することにより、核融合プラズマや相対論プラズマ、宇宙・天体プラズマを中心に、産業応用も視野に入れたプラズマに関わる幅広い物理学の理論研究に取り組みます。

物質の第四の状態・Fプラズマ

すべての物質は、原子からなっています。身近な例で水(H2O)の場合、固体である氷を加熱すると、氷を構成する原子の運動が次第に大きくなり、やがて液体(水)に変化します。
さらに温度を上げることで水は、気体(水蒸気)となって、物質はその存在形態を変化させていきます。
これをさらに加熱したり、高い電圧や圧力をかけることで、もともと中性であった原子はプラス電荷のイオンと、マイナス電荷の電子に分離します。
このような、多数のイオンと電子が混在し、各々が一見独立に、高速で運動している状態が「プラズマ」です。
このプラズマは、イオンと電子がほぼ同数あり、全体としては中性が保たれているため一見普通の液体や気体のように見えますが、それだけでは記述できない「新たな法則」が加わることになります。
これが「物質の第四の状態」と呼ばれる理由です。

この法則は、プラズマの各イオンが磁力線に対してらせん状に巻きつく運動のことを指します。
つまり、「磁場」と「プラズマ」はパートナーの関係にあることになります。
また、プラズマ自身も色々な種類の電場や磁場、すなわち電磁波動を発信しながら、それを介して空間的に遠く離れたプラズマとも常に交信を行い、情報を交換しながら自身の進路を決めるという性質を持ちます。
これが第4番目の豊富な現象を創出する起源になります。

それでは、核融合とはどういう状態で起こるのでしょうか?
核融合現象が起こっているもっとも代表的なものは太陽です。プラズマの中で原子核同士が高速で衝突すると核融合反応を起こし、より重い原子核に変わります。
その際、大きなエネルギーが放出されますが、これが太陽エネルギーの起源・核融合です。
プラズマは、圧力が高いため何もなければ、飛散してしまいます。しかし、太陽は地球の30万倍の質量を持っていることから、大きな重力が発生し、プラズマが高温・高圧で長時間安定に維持されます。

太陽の主要な物質水素であり、温度は1,500万度程度ですが、密度が1ccあたり200gと固体水素の2000倍、このときの圧力は240Gbarに達します。
当然この領域から放出される全エネルギーは天文学的量(3.85×1026W)です。
しかし、これを1m3あたりに換算すると100W程度で人間が発熱するbio-chemicalなエネルギーは70kW程度であることを考えればと意外に小さいということがわかります。
これは、水素をベースにした時定数が数十億年の非常にゆっくりとした反応であることによりますが、地上で産業を支えるエネルギー源とするには、小さくても単位立方メートルあたり数MWと太陽と比べると桁違いに効率的なシステムを作る必要があり、これから見ても核融合は必ずしも容易ではないということがわかります。

プラズマ・核融合研究へのアプローチ

地上の核融合ですが、核融合反応断面積の最も有利な反応、すなわち重水素と三重水素をベースにしますが、将来的には、DD反応やDHe3等の中性子フリーの反応も視野に入れることが必要であり、このような先進的な燃料を使った研究も大学を中心に勢力的になされています。

上図はローソン図と呼ばれる核融合をエネルギー源として成立させる条件を示しており、プラズマの温度と密度、それからそれらを保持する閉じ込め時間の代数関係式で表されます。
外部から投入するエネルギーと核融合出力の比、これをエネルギー増倍率と呼び、以後Qとして定義しますが、このQが1になる条件が科学的break-evenであり、磁場方式ではDD燃料を用いた等価的な換算値では日本原子力機構のJT-60ですでに達成されています。
ITERやNIFでは実際の核融合燃料である重水素と三重水素を用いて、より高Qの値を、さらには外部入力ゼロでも反応が維持できるQ=無限大の核融合点火を目指すことになります。

磁場方式と慣性方式

核融合を実現するには、二つの方法、「磁場方式」と「慣性(レーザー)方式」があります。
左図ではDT核融合を念頭に、プラズマ温度を10keVに固定し、閉じ込め時間と密度の平面で互いの関係を示しています。
ローソン条件に基づいて、核融合増倍率Q=1及びQ=無限大のラインが示されています。
プラズマの密度と閉じ込め時間は互いにトレードオフの関係にあり、「磁場方式」では低密度で長い閉じ込め時間、「レーザー方式」では高密度で短い閉じ込め時間の領域に位置します。

この領域の決定の仕方は、「磁場方式」の場合は、磁場圧でプラズマを閉じ込めることから磁場の生成技術から閉じ込められるプラズマ圧力が決まり、磁場圧に対するプラズマ圧を5%(ベータ値と呼ばれます)と仮定すると、密度が1ccあたり1014個程が要請されます。
あとはローソン条件から数秒の閉じ込め時間が決まり、この閉じ込め時間が原理的に達成できるかが磁場方式の成否を決めることになります。

一方、「レーザー方式」の場合はレーザーの爆縮圧を使うことから、レーザーの発生技術が鍵となり、数十kJから数百kJのエネルギーをナノ秒のパルスに集中させるテクノロジーが背景となります。

閉じ込め時間は燃料が慣性で留まっている時間(慣性時間)で決まり、この慣性時間をレーザーパルス長のナノ秒程度と考えると、あとは磁場方式と同様にローソン条件から高密度、すなわち固体密度の千倍程度が要請されることになります。

参考のため右の軸に圧力を示していますが、磁場では数バールと大気圧レベルですが、レーザー方式では数百Gバールと、太陽の中心に匹敵する圧力になります。 両者のスケールの違いは1010以上ありますが、このように大きく隔たったパラメータ領域がローソン条件という簡単な代数式で結びつけられているのは興味深い点です。

磁場方式の種類:「トーラス系」と「開放端系(ミラー型)」 および 「トカマク系」と「ヘリカル系」

磁場方式による核融合では、用いる磁場形状に対して幾つかの選択の自由度があり、将来の高い競争力も視野に入れて系統的に研究が進められています。
これらは大まかに二つに分類され、一つはドーナツ状にして直線磁場の端点をトポロジー的になくする「トーラス系」と、直線的な簡素性は保持したまま端点に様々な工夫を施してプラズマを閉じ込める「開放端系」があります。
開放端系は現在、筑波大学のタンデムミラー型と呼ばれるGamma10・秩ESに研究が進められおり、二つの端点において、磁場構造だけではなく、磁力線に沿った方向に「電場」を能動的に発生させることによってプラズマを閉じ込める研究が進展しています。

一方、トーラス系は、磁力線を単純に連結しただけでは内側と外側で磁場に強弱が現れ、これが原因となって電場が発生し、プラズマを保持することができません。 この電場を打ち消すためにはポロイダル方向にも磁場成分を持たせて内側と外側を連結させる必要があり、そのため"らせん状"の磁場構造を作ることが必要になります。
このらせん状磁場を持たせる方法としは、プラズマ自身に電流を流しそれが作るポロイダル磁場を用いるトカマク方式と、ヘリカルコイルによって外部から直接"らせん状"の磁場を作るヘリカル方式があります。
後者のヘリカル系は電流を意識して流す必要がないため定常性を強く意識したものと言えます。

このとき、トカマクではトーラス方向にはプラズマは一様で対称性があることから「軸対称系」とよび、ヘリカル型はヘリカルコイルの作る磁場強度がトーラス方向に変化して対称性がないため「非軸対称系」と呼びます。
それらは互いに相補的であり、それぞれ"対称性"のある物理と"対称性"がない物理が対応しています。
対称性の有無に関しては、素粒子理論をはじめ、多くの物理がそうであるように、それぞれに興味深い物理過程が存在します。
トカマク系とヘリカル系は、それぞれに一長一短がありますが、課題の克服に向けて研究が進められています。

磁場核融合装置:JT60(トカマク系)とLHD(ヘリカル系)

これらはそれぞれ、日本を代表する大型のトカマク装置JT-60(日本原子力開発機構:那珂研究所)と大型ヘリカル装置LHD(核融合科学研究所)の概観と真空容器を示しています。
トカマクは対称性のあるドーナツ形状ですが、ヘリカルは真空容器も、作られるプラズマも3次元的なヘリカル形状になっています。
LHDは、大型のヘリカル装置では世界で初めての超伝導装置で、コイルは液体ヘリウムで冷却され、真空容器を隔てて一億度近いプラズマと共存します。
真空容器周辺にはプラズマを加熱したり電流を駆動したりする様々のRF装置や粒子ビーム入射装置が取り付けられています。

慣性方式(レーザー核融合)の種類

慣性方式はレーザー核融合に代表されますが、爆縮を駆動するレーザーシステムと核融合を起こす燃料ペレットがセットされるチェンバーは分離しているため、ペレット形状を変更することで多彩な爆縮スキームを選択できるという内在的なメリットがあります。
手法としては、「中心点火方式」と呼ばれるものと、近年注目を集め、大阪大学が中心に進めている「高速点火方式」と呼ばれるものがあります。

この中心点火方式・高速点火方式はともに、多数のレーザービームを四方八方からなるべく均一に照射し、ペレット表面を高温にしてロケット噴射と同様のプラズマの噴出・アブレーションを起こさせ、その反作用でDT燃料を内向きに圧縮します。
ここまでは両者の概念はほぼ同じですが、中心点火方式では、初期に綿密なペレットデザインを行い、最大圧縮に達する前から自発的に爆縮コアの中心領域で高温プラズマ(ホットスパーク)を作り、周りの低い温度の燃料を点火・燃焼させる、というシナリオです。
ところが、このホットスパークを生成するにはペレット中心に高温状態を保ちながらペレット圧縮するため、結果的に大きな爆縮エネルギーを必要とし、また極めて精度の高いデリケートな圧縮が必要とされます。
これを緩和する手法として、高Z物質で作られたキャビテイーにレーザーを照射し、一度、一様性の高いX線に変換して、それを再度ペレットに照射する「間接照照射方式」と呼ばれる手法があります。
これは米国を中心に研究が行われていますが、ペレットが複雑であることやX線への変換効率等に問題が残っています。

これらに代わる新たな方法が「高速点火」と呼ばれるものです。
これはペレットの最大圧縮時に合わせてペタワット(10**15W)級のレーザーを数ピコ秒の瞬時に照射し、これによりホットスパークを強制的に生成する手法です。磁場核融合の言葉で言えば"追加熱"ということになります。
このペタワットレーザーと高密度プラズマとの相互作用はレーザーのエネルギー密度が非常に高いため相対論領域に入り、そのプロセスは相当複雑になる可能性もありますが、低いレーザーエネルギーで高い核融合利得が期待できるとされています。

レーザー核融合装・u:大阪大学激光XII号

大阪大学レーザー核融合センターにおいて稼働しているレーザー核融合装置激光12号の全景とレーザー照射瞬間のターゲットチェンバー内の様子、および、高速点火用のペタワットレーザーの全景を示しています。
波長1ミクロンのガラスレーザーを、KDP結晶と呼ばれる波長変換結晶を通して、波長0.5ミクロンの2倍高調波のグリーン光、および、波長0.33ミクロンの3倍高調波のブルー光に変換され、およそ1ナノ秒の間に20KJのエネルギー(20TW)を核融合ペレットに照射可能な世界最大級のレーザー装置です。

日本における核融合装置の進展

この図は日本における核融合装置の推移を示しています。
核融合は1958年から公開となっていますが、日本では京都大学のヘリカル装置が日本独自のアイディアとしてすでにこの時期からスタートしました。
このプロジェクトはヘリオトロンEに発展し、ヘリカル系の基盤を築きながら、それがCHSとともに世界有数の超伝導大型ヘリカル装置LHDの設計に反映されています。
トカマクはヘリカルに若干遅れてスタートしていますが、プラズマの閉じ込めが比較的良好であったことから、この時期世界中に急速に広がっています。
その中からトカマクの定常運転を目指した研究がすでにスタートしており、電流駆動の基盤に大きく貢献した京都大学のWTシリーズや、超電導装置として先陣を切った九州大学のTRIAMが建設され、大型装置の研究につながっています。
また、開放系も筑波大学で同時期にスタートしており、レーザー核融合は、Qモードスイッチが発見され10年を経ずして計画がスタートし、大阪大学の激光12号に受け継がれています。

この図から、核融合の発展形態に対して二つ特徴的な点が読み取れます。
最初は、各々の装置で建設初期の比較的短い期間で多くの改良が施されて、研究当初プラズマが如何に予期しない複雑な振舞いを示したかという点です。
二番目は、小型装置と大型装置は多くの場合ペアで共存し、小型装置で科学基盤のベクトルを定めながら大型装置での研究を効率的かつチャレンジグに行っている点で、このような研究スタイルが核融合研究を短時間に大きく進展・ウせています。

実験研究と並行して理論研究やスーパーコンピュータの著しい発展を背景にシミュレーション研究が早い時期から取り入れられ、近年では計算機の中にトカマクをはじめとした核融合プラズマを再現する数値トカマク研究等のシミュレーションに基礎を置いた新しい研究スタイルが芽生えています。